鍋春菊のメルティング・ポット

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【感想】中古でも恋がしたい! 第一巻 

【あらすじ】

日夜エロゲーに励む高校生・新宮清一はある夜、新作エロゲーを買いに行った帰りにトラブルの現場に遭遇する。複数の男たちに取り押さえられ、身動きのとれない少女、だが彼女の見た目はいわゆる“不良少女”だった。それを見咎めた清一は自業自得、と見て見ぬ振りをしようとするが、良心の呵責からかスマホからパトカーのサイレンを鳴らし男たちを追い払うことに成功する。

迎えた翌朝、清一は校内一の不良と評されるクラスメイトの綾目古都子から唐突にアプローチを受ける。さらにその次の日に告白まで受けてしまう。「中古」と渾名まで存在するほどだった彼女は、清一の趣味に合わせこれまでのイメージを払拭するほどの“純情少女”になっていた。彼女のこの清一は告白を拒否、しかし古都子は「絶対お前の理想になる」と宣言する。その熱意振りは彼の趣味であるエロゲーを研究するほどであり、清一は困惑しつつも彼女を同志として認め、やがて行動を共にするようになる。

古都子の貞操観念、カツアゲの仲裁、彼女の行く手を阻む不良仲間。清一は古都子の実際の性格が噂とかけ離れていることに疑問を抱く。またそんな中、古都子の幼なじみでありクラスのアイドルでもある声優の初芝優佳からも告白を受ける。清一は同じく拒絶するも初芝古都子に宣戦布告する。まさに両手に花の状況だが、その二人の影には共通の『因縁』があり――

 

 

中古でも恋がしたい! (GA文庫)

中古でも恋がしたい! (GA文庫)

 

 

美少女ゲームへの愛で満ちた、オタク系主人公による嘆き

さて、今回は予告どおり、先日のドラマCD版「中古」の原作をレビュー。

前回は本書を原作としたサウンドドラマのレビューを行った。大まかな人物については参照して欲しい。

【感想】ドラマCD 中古でも恋がしたい!~ぜってーお前の理想になってやる!~ - 鍋春菊のメルティング・ポット

 

中古よりも新品がいいに決まっている。見知らぬ他人がベタベタ触った指紋付きのチョコレートを食べられるか? まともな奴は食えんだろう。

 

作中で、攻略したキャラが最後の最後に非処女だと判明した後の、彼のモノローグから抜粋。

主人公の熱烈な二次元、処女崇拝と今日のオタクの痛さの象徴と言える「乙女願望」が字面からムンムンと伝わってくる。こういった思想はまさにリアルを捨てた人間のそれである。

 

俺も含めてオタクの処女信仰、いわゆるガチの処女厨は、もっと奥深くから異常なほど潔癖だ。

(中略)

それを気持ち悪いという人もいるだろう。

自覚してるさ。世間からすれば、受け入れられないマイノリティであるということも。

 

彼はそれを自覚しているのだ。自分が受け入れられない気持ちの悪い存在だということを。その自覚の現れは、なるべく学校では18禁ゲームの話をしないなど、実生活の中で垣間見ることができる。要するに彼は分別のあるオタなのだ。思想そのものは褒められたものじゃないと私自身は思うが、思うだけなら自由である。幸いにも日本では思想・良心の自由は絶対無制約保障がなされている。

古都子初芝にアプローチされてもなお、その信念を曲げないあたり、本当に筋金入りのオタクだ。

 

この通り本作品は美少女ゲームへの深い愛と熱量でもって書き上げられている。「18禁ゲームのコーナーで知り合いと出くわしたら、見て見ぬ振りをする」などオタク文化のアングラ臭がユーモラスに作中のイベントに盛り込まれている。

 

美少女ゲームよりゲームゲームしたプロット

本書はリアルには縁もゆかりも興味もない〈処女〉厨の少年が援交や万引き等犯罪の噂が尽きない〈中古〉の渾名を持つ不良少女に惚れられることによって始まるラブコメだが、なんといってもこの話の核になるのは綾目古都子と向き合うことで生まれた疑念――噂と実際の性格の不一致――を解消するための『真相の追及』である。

彼女は本当に非処女(ビッチ)なのか? あるいは環境によって歪められてしまったのか、ただ単に気分の問題だったのか?

 

清一はそれを確かめるべく友人の外崎啓太や、教師でありながら従姉妹の小谷桐子に聞き込んでいく。そこに電撃告白を仕掛けた初芝優佳が加わり、次第に古都子の過去が明らかになっていくという謎解き要素を持っている。美少女ゲームのようなシチュエーション、世界観ながらその実内容はすこぶる小説らしい。場合によっては、昨今の美少女ゲームよりも、ゲームゲームしたプロットかもしれないのだ。

どういうことかと言うと、最近の美少女ゲームでは選択肢こそあれど、それはあくまで好感度をどのキャラクターに振り分けるかを決めるためのものであり、シナリオを直接動かすものではない。プレイヤーはリニアなレールの上で目当ての娘を落とすために選択をし、極端なことを言えば、あとはぼーっとしながらクリックするだけでエンディングを迎えることができるのだ。恋愛が前提となっている故の制約なので、どうしても作り方は決まってきてしまう。

だが本書では、主人公である新宮清一は自らに生じた疑念をはっきりさせるために様々なキャラクターと関わり、イベントに巻き込まれていく。周囲に散りばめられた伏線を必要であれば能動的に回収し、組み立てあげることで一つの真相を浮上させる。これは謎解きミステリーのようなインタラクティブなゲーム性に近似している。彼は物語の語り部であると同時に、バラバラになったパズルのピースを繋ぎ合わせる役目も負っているのだ。

 

 

【まとめ】

この作品は、美少女ゲームの世界観に上手く小説ならでは技法を用いて切り込むことに成功している。聞けば、作者の田尾氏は美少女ゲームのプランナーをやっているそうだ。時たま清一が漏らす『それどんなエロゲ』もおそらく意図して挿れられているのだろう。

美少女ゲームから生まれたライトノベルが見事に親殺しを成し遂げ、独自のアイデンティティを獲得してるのである。

 

残念だったことと言えば、黒幕が擁護のしようがないほど典型的な屑で、登場人物の憎しみを一点に引き受けてしまっていることだろうか。少し安直だな、とは思った。

 

しかしそれを差し引いても今作はライトノベルとしてはかなり面白い部類に入るだろう、でなきゃこんなレビューはしない。

私の「ラノベ嫌い」克服の第一歩として、なかなかの読み応えを感じた作品だった。

ぜひとも、続編も読みたいものである。