鍋春菊のメルティング・ポット

アニメだろうが実写だろうがそれがなんであろうが面白けりゃいい!そんなハンパモンのブログ

停煙

 大学の期末試験も終わり、夏季休暇に入った。今は秋田の実家に戻っている。

 今回の滞在期間は十日余。インターンシップのことなどを考えて、下旬には準備ができるようにとスケジュールを組んだ。

 以前の帰省にはなかったもの、頭を悩ませる問題があった。タバコである。

 ウチは禁煙で、それは何よりも犬のことを考えてのことである。もちろん僕も愛犬の前でタバコをプカプカさせるほどヒトデナシではない。とはいえ、帰ってすぐに猛烈に

「タバコが吸いたい……」

 という衝動に駆られた。

 前回、GWのときには我慢できたものが、全く辛抱できなくなっていた。5月から吸う本数も一日に一本だったのが二本になり、テスト期間には、勉強へのストレスを解消するために一日に四本も吸うようになってしまっていた。そんな僕がいきなり禁煙などという反動に堪えられるはずもなかった。

 特に辛かったのが食後だ。僕は普段、満腹になってぼうっとしたアタマをすっきりさせるために吸っていたのだが、習慣となってしまった行為が禁止されるというのは心底辛かった。

 結局、帰省初日は、一本も吸うことなくすこやかに過ごした。

 というのはもちろん、皮肉だ。内心は喫煙がしたくて悶々としていた。

 

「吸わせてくれ…一本でいいから、オレにタバコを吸わせてはくれまいか……」

 

 脳裏にはいつもタバコのことがあり、オレは八つ当たり的に暴飲暴食をして鎮めようと試みた。(ああ文章までやさぐれていく……)

 あまりの吸いたさに『じゃがりこ』をタバコに見立てて「すー、すー」と吸い始めたときは我ながらドン引きした。

 ニコチン依存症なのは誰の目に見ても明らかであった。

 

 二日目、家で吸わなければいいのなら、外で吸えばよいのではと考え、中毒のオレは郵便局にも用事があったので、

 「散歩がてら郵便局で金を下ろしてくる」

 と告げ外出し、その足で真っ先にコンビニへ向かい、赤マルの1mm(最近はメビウスよりマルボロ派です)とライターを購入し、早速コンビニ前でふかし始めた。

 煙を肺に入れると、一瞬アタマがクラっとなった。実は秋田に帰る直前に夏風邪をこじらせ、熱もひどく寝込んでいたために吸うのは実に三日ぶりだったのだ。

 久々の喫煙だったので、ヤニクラを起こしてしまったようだった。(だが心配はない)

 その後に全身が騒ぎ出すような、得も言えぬ快感で満たされた。これほどニコチンを渇望していたのかと、これまたドン引きした。

 

 気がかりだったのが、田舎町ゆえ、知り合いに吸っているところを目撃され、母の耳に入りやしないかということだった。(又聞きの又聞きから噂がどんどん広まっていくのが田舎の恐ろしいところである。リアルな人間関係を伝っていくので、ある意味ネットよりも脅威なのだ)

 すぐに一本を吸い終わり、満足したボクは、ややフラフラとした足取りで郵便局へ向かい、次の日に使う分のお金を引き出し、帰路についた。途中、家のすぐ近くにある公園に行き、タバコのニオイを落とすため念入りに手を洗い、芝生で寝そべってにみたり、腕立て伏せをしてみたり、タバコ臭をカモフラージュしようと土でヨゴしてみたりした。

 これならバレないという絶対的な自信があった。

 帰ったときには母もでかけており、僕はダンベルを使ったトレーニングや胸筋を重点的に鍛える上体起こしなど、筋トレの続きをし、つかれた僕は自室に戻り昼寝をした。

 

 そして……夕飯時のことである。オムライスを食べていた僕に母は言った。

 

「ちょっとタバコ臭いんですけど」

 

 スプーンを動かす手が止まる。半分混乱した僕はあくまで平静を装い、

「タバコ? 土じゃなくて?」

「あのね、普段タバコを吸ってない人にはすぐに分かるんだよ、どこで吸ってきたの?」(原文ママ

 

 バレバレだった。おかしい、ニオイはたしかに消したはず。わざわざ服を脱いで確認までしたのに、いったいどこに残っていたのか……

 疑問を浮かべながら、僕はその後の取り調べに素直に応じた。

 

 結局、家で吸いさえしなければいいとお許しをいただいたが、なぜバレたのかどうも腑に落ちなかった。

 

 だが冷静になって今回の敗因を分析した。詰めが甘い箇所がいくつか見つかった。

●どうせ筋トレをやっていたのだから、汗だくになったなど適当な理由でシャワーを浴びて着替えればよかった。

●比較的ニオイがキツくない刻み煙草と、煙管を持ってくればよかった(実はタバコの悪臭の主な要因は巻いてある紙のせいなのである)

 

 そして何より、鼻づまりでニブっている嗅覚を信じてしまったことだった。

 

 この原稿を書いている今は帰省してから四日目だが、出かける機会もあり行く先々で喫煙を楽しんでいる。

 どうやら僕には、禁煙は無理そうだ。

 

 

(追伸)

 私の後に父が千葉から帰ってきた。

 その父が、普通に家の換気扇を回してタバコを吸っていたところを見た。