鍋春菊のメルティング・ポット

アニメだろうが実写だろうがそれがなんであろうが面白けりゃいい!そんなハンパモンのブログ

陰湿

 長期休暇も終わり、いつのまにやら暦は10月、季節は秋になってしまった。秋というにはどうにもまだ暑く、夏が性懲りもなくしがみついているような気もするが。

 今日も相変わらずの雨天だ。降水量を確認しないで外に出るため、ドアを開けた途端にうんざりしてしまう。学校に行くモチベーションも全く上がらない。これでは望まずとも気分は陰鬱になっていく。

 

 実は、この記事を書く前に昨夜下書きしておいたものがあったのだが、故あって没にした。中身は、前々回『愛憎』の続きで、例の作品についてボロカスに綴ったものだ。『愛憎』のときのような愛情半分、憎悪半分といった生優しいものではない。そこには作品憎しの一点でのみで殴り書きされた、批評文とも感想文ともとれないただの悪口がみっちりと書き連ねられた駄文だった。

 昨夜の時点では翌日早朝に清書をし投稿するつもりでいた。誰かに読まれなくとも、自分が抱いている痛みを言葉にしてストレス発散、あわよくば他の人にもこの堪え難い痛みを知ってほしい。

 なあんて荒れ具合だった。

 

 それを思いとどまらせてくれたのが友人との会話だった。夏休み気分が抜けていない僕はなかなか寝付けない、かたや彼は居酒屋でのバイトを終え、まだ余力があるということで、久しぶりに二人で通話をすることにした。

 没になった原稿を書き終えてから間もそれほどなかったため、話は初っ端から例の作品についての悪評から始まった。何人に話したか分からない、いろんな人とのやりとりの中で固まっていった、僕なりの総評を彼はうんともすんとも言わずに聴いていた。

 気が済むまでぶちまけた後、彼から返ってきたのは、

 

「お前心が貧しいな」

 

 という発言だった。僕自身、自分の感覚は間違っていないと自信があったから、その一言には面食らった気分になった。

 発言の中身はと言えば、作品が嫌いにも関わらず見続け粗探しをするなんてどうかしているということで、たしかに正論である。彼の言葉に深く傷つきはしたが、同時にその通りだな、と納得してしまう自分がいた。

 お前はただ拠り所を失いたくないからその作品にしがみついているだけなので、いい加減そこから離れてエネルギーをもっと楽しいことに注げ、とも言われた。

 

 返す言葉もない。

 普通、正論を言われたら多少なりともムッとくるものであるが、彼の言葉だけはすんなりと胸に入ってきた。

 ずっと待ち望んでいた言葉だったのかもしれない。

 

 改めて自分の近況を思い返してみる。なんて嫌なヤツなのだろう。昔の自分ならば作品の悪口なんて滅多に言わなかったと記憶している。その作品の良さを伝えたい、そんな純粋な想いで楽しげに話していた少年の姿は、今や見る陰もなかった。

 

 面白いもんは、面白いと言う。つまらんものはきっぱりと切り捨てる。この原則を肝に命じてきたはずなのに、いつの間にか歯車は狂ってしまったようだ。

 

 自他共に認めていることだが、例の作品への意識は百パーセント憎悪でできている。これでは楽しいわけがないではないか。

 僕は彼の一言で、初めて作品を楽しむことを知った。無論、彼も僕も内に芽生えた不満を否定しているわけではない。世の中には他にも何千という娯楽が存在する。肌に合わないと感じたのなら、乗り換えればいい。いつまでも固執することはないのだ。

 または、その作品の面白いところに目を付け、自らで楽しさを見出すという“遊ぶ”方向に舵を取るか。

 楽しいことに越したことはないのだから……

 

 僕は今しばらく、後者の方で“遊んで”みようと思う。

 幸い、現在とある友人からいっしょに同人誌を創ってみないかと打診されている。作品への認識が変わるいいきっかけになることだろう。

 

 また当初は報復のためにと思って書き溜めていた同人小説だが、送り手にとっても受け手にとっても希望となるような作品にしたい。つまらない復讐に手を染めるのは、もう終わりにする。報復がもたらす連鎖を、ここで断ち切るのだ。

 

 メタルギアソリッドVの主人公、ヴェノム・スネークの台詞をふと思い出した。

『自分の中の“鬼”を棄てて、今日よりもいい明日を創る』

 

 この原稿を書き上げるころには、雨はすっかり止んでいた。

 

 

 

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 万年筆が壊れたと思ったので買い直したのですが、インクがペン先まで注入されていなかっただけのようです。また無駄な出費。